若者たちのイスラーム 現代西アフリカを動かす宗教性の人類学

内容
社会を動かす宗教ダイナミズムをどう理解しどう描くか? これが本書を通じた大きな問いである。2000年代から2010年代初頭にかけてのセネガルは、かつてなかったほど政治と宗教の関係が可視化された時期だった。政府はスーフィ教団(イスラーム神秘主義の教団)への支援を背景とした農地改革や都市開発、教育改革を行い、アラブ・イスラーム圏に力を入れた国際政治を進めた。国公立大学であるダカール大学でも、学生たちは宗教サークルの儀礼や勉強会に積極的に参加した。
本書は、教育の場であると同時に常に政治の場となってきた大学や高等教育機関における様々なイスラームの動き─中でもセネガルに複数存在するスーフィー教団やその下集団、そしてアラブ思想に影響を受けたと言われる改革主義系の運動等─に着目し、これらの動きを追うことで、近現代におけるセネガル社会の大きな変化を描きだすことを試みた。また、セネガルの教育と政治の場を形成してきたこれら様々なイスラームの動の中にいる「ひと」について明らかにし、現代を生きる若い信者たちの信仰生活を描きだすことで、現在進行形でセネガル社会を変化させていく宗教性のダイナミズムを理解することを試みている。
序論では、社会における「ダイナミズム」と政治に関する本書の理論的な展開について説明すると同時に、本研究の前提として、本書が着目するセネガルの大学生や学術組織、イスラームといった対象に関する先行研究が、大きな文脈における「知(識)‐(権)力」、特に植民地政策による政治的意図を伴ったラ・ポリティーク(公的政治)領域からどのように影響されてきたかについて批判的に検証する
目次
はじめに
凡例
序論 「知と力」を生成する場
第1部 近代政治を動かした若者たち
第1章 スーフィー教団と近代高等教育の場 知識・政治運動・人
第2章 アラビア語話者知識人と「改革主義」イスラーム
第3章 左派思想運動の敗退と大学におけるイスラームコミュニティ
第2部 自由主義政権下の社会の中で:「若者たちの導師」と新たな「ポリティーク」の場
第4章 民主党政権下のセネガル::上からの「教団政治」と「若者たちの導師」
第5章 「若者たちの導師(マラブー)」と「下からの」社会改革運動
第6章 イスラーム近代教育の場:教育者と学生たち
第7章 宗教メディアと新たな知識・表現の場
第3部 学生たちのイスラーム:大学キャンパスにおける宗教性のエスノグラフィ
第8章 大学キャンパスにおける宗教実践:空間と身体性のダイナミズム
第9章 若者たちの霊性文化:もう一つの「大学」としての「タリーカ; 道」と「修行(タルビヤ)」
結論 セネガル現代社会を動かす宗教性のダイナミズム
おわりに
参考文献一覧
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略語一覧
写真図表一覧
索引